しいたけの原木栽培

役に立つことと役に立たないことを書きます。

私たちが知っているけど知らない日本語

まずは英語の話

突然ですがここで問題です。 皆さんは「白くて大きい老齢の猫」を英訳すると、次のうちどれになると思いますか?
まずは自分で考えてみてください。答えは下にあります。

  1. an old big white cat.
  2. a big old white cat.
  3. a white big old cat.

















どれでもいいだろ!と思ったあなた、残念ながら間違いです。
正解は2番です。
英語において、1つの名詞を複数の形容詞で修飾するとき、その順番にはルールがあります。
下の図をご覧ください。このルールに従えば、2番が正解であると分かりますよね?

形容詞の英語文法 – 名詞の前に形容詞を並べる順番のルール【ラングランド】

さて、この図を見てどう思いますか?
率直に言ってめんどくさいルールですよね。私はそう思います。
本当にネイティブはこのルールを知った上で、意識して使いこなしているのでしょうか。

実を言うと、ネイティブはこのルールを全く意識していません。
彼らに「形容詞を並べる順番を教えて」と尋ねると、答えに窮してしまうそうです。
しかし彼らは英語をしゃべるとき、当たり前のようにこのルールを守っています。
このルールに従わない文章を見ると、「何か知らないけど、気持ち悪い」という印象を抱くそうです。 彼らは自分たちがこのルールを知っていることを知らないのです。

人間の「無意識」のパワーを感じさせる、興味深い事例ですよね。

ここでようやく日本語の話

日本語でも似たような事例はあるのでしょうか。
私が知っているものを挙げます。「連濁」です。
「連濁」という言葉を知っている人はあまり多くないと思いますが、聞けば「ああ、あのことか」と納得するはずです。

連濁(れんだく)とは、二つの語が結びついて一語になる(複合語)際に、後ろの語(後部要素)の語頭の清音が濁音に変化する、日本語における連音現象をいう。「ときき」「いけな」などがその例である。
連濁 - Wikipedia

例を挙げてみましょう。

  • あき + はこ = あき
  • かわ + さいふ = かわいふ
  • うもう + ふとん = うもうとん

この通り、私たちの身の周りは連濁であふれています。

しかし、よくよく探してみると連濁しないパターンがいくつも見つかります。

  • あい + かぎ = あいかぎ
  • ふく + せん = ふくせん
  • むし + タオル = むしタオル

さて、どういうときに連濁し、どういうときに連濁しないのでしょうか?
ここにも、ややこし~い法則があります。
まずは、和語(訓読みからなる言葉)・漢語(音読みからなる言葉)・外来語という軸で見てみましょう。

和語 漢語 外来語
連濁する あき + はこ ふうふ + けんか あま + かっぱ
連濁しない あい + かぎ ふく + せん むし + タオル

一般に、漢語や外来語は連濁せず、例外的に連濁するものがあります。
例えば、漢語では「喧嘩」や「会社」など一般化・日常化した語が、外来語では「かっぱ」や「かるた」など江戸時代以前に定着した外来語と認識されづらい語が連濁を起こします。

一方で、和語は基本的に連濁しますが、例外的に連濁しないものがあります。
例えば、「はる + かぜ」のように、後ろに来る語がすでに濁音を含んでいる場合に連濁が阻止されます。
他にも連濁が阻止される条件はいくつもありますが、趣旨ではないのでここらで割愛します!

お伝えしたかったのは、これだけ複雑な法則を私たちは無意識のうちに使いこなしていますよ、ということです。
例えば「あいがぎ」「ふくぜん」「むしダオル」などと言われたら何か違和感を感じますよね?それです!
私たちの言語能力はその大部分が「無意識」によって制御されているのです。

まとめ

無意識について

今回の例で実感してもらえたことと思いますが、私たちは無意識によってたくさんのことを判断しています。
私たちは自分の考えや自分の行動を自分の意思によって意識的に決定していると思いこみがちです。しかしその実、その決定には「無意識の判断」が極めて大きな影響を及ぼしています。
無意識はどのように判断し、またどのような時に間違いを犯してしまうのか?というのはとても興味深いテーマです。これを知っておくと、人というわけのわからない動物への理解が深まります。
私が最近このことに興味を持っているのは、「ファスト&スロー」という本を読んだ影響です。雑な紹介になりましたが、興味がある方はご一読ください。

英語を学ぶ戦略について

私たちは「連濁」の法則についてどうやって学んだのでしょうか?誰かに教えてもらった?
違いますよね。浴びるように日本語に触れているうちに、「無意識」がそのことを学習したのです。英語ネイティブが形容詞の順番を学んだのも同じ方法です。
これらの法則をいちいち覚えて、「意識」に判断させていたのではとても会話のスピードに追いつきません。
英語について何も分からないうちは、文法を覚えて「意識」による判断で英文を読んでいくしかないでしょう。
しかし、ある程度英語が分かるようになってからは、とにかく浴びるように英語に触れて、「無意識」に学習させるのが一番です。
多読をしましょう。私は最近始めました。純粋におもしろい名著を読むのは楽しいです。ぜひ習慣にしていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。皆さんが英語を学習する助けになれば幸いです。